やね日記

或る大阪在住Mac使いの道楽な日々

捨てられる銀行

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リレバン再び

本書は、共同通信社経済部の記者である筆者が、昨年7月に就任した森信親金融庁長官をメインにして、変貌つつある金融行政を詳細に書いたものです。
特に印象的だったのが、自己資本比率不良債権比率など銀行の健全性一辺倒だった金融庁の行政方針が、地域の企業や経済への貢献を地銀に求めるという方針転換を行なっている点です。この二十年の間、地域金融に携わっている人にとってはまさにパラダイムの転換とも言うべき大変革であろうと思います。
かつて、2003年に掲げられ、後に有名無実化したリレーションシップバンキング(リレバン)が再び表舞台に登場したような印象を受けました。

1990年代の金融危機以降、多くの地銀(地方銀行)は自己資本比率の上昇や不良債権比率の抑制のために合併や経営統合などの規模の拡大に走りましたし、貸出先の獲得のために隣接する大都市圏に支店網を拡大して貸出先の比重を地元から大都市圏に移す動きも見られました。また、保全面で有利な保証協会付融資や住宅ローンに走り、低利こそ顧客満足と言わんばかりの、低利での肩代り攻勢を進めるところも出ています。
今回の金融庁の行政方針の大転換は、そう言った多くの地銀の動きを牽制するものとして期待されると思います。

定性分析の難しさ

ただ、事業性評価などの定性分析を地銀が行なっていくのは困難がつきまとうと思います。
決算書から売上や収益などを見てキャッシュフローをはじき出し、財務分析をすることは広く行なわれていますが、事業性評価などには明確な基準がなく、言わば未知の分野に入って一から作り上げなければならないという難しさはあると思います。
本書では、これらに取り組んでいる地域金融機関の事例を掲載していますが、地方にはそれぞれ特色がありますし、その地方を基盤とする地域金融機関はその特色に合わせた手法を考えなければならないので、少なからぬ苦労は伴なうと思います。

「捨てられる信金」や「捨てられる信組」も

本書は地銀を主題として書かれていますが、同じ地域金融機関として信金(信用金庫)や信組(信用組合)も無縁ではないと思います。
多くの信金や信組は地銀と競合していますし、地銀が地域の企業や経済への貢献に走れば、自ずと信金や信組も対応する必要があります。また、先月の金融庁の人事異動で、地銀のモニタリング手法を確立した上田真吾氏が協同組織金融室長に就任しています。地銀への方針が信金や信組に波及するのも時間の問題だと思います。
平成28年度の金融行政方針がどのようなものになるかは分かりませんが、地域金融機関は引き続き注視する必要があると思いますね。