この話を聞いた時に感じたのは、事業譲渡の前に従業員の解雇を行うのはあり得るのかということでした。
従業員、すなわちヒトは、モノ、カネ、情報と並ぶ重要な経営資源なので、解雇などでその経営資源を毀損することが、果たして事業譲渡の際に有効なのかと疑問を持ちました。
事業譲渡は言うまでもなくM&Aの一形態で、特に昨今は中小企業経営者の高齢化に伴い、事業承継の手段として用いられつつあります。
ただ、その際には必ず、価値評価やデューデリジェンスが行われますし、その過程で従業員に対する評価を行わずに解雇を前提に考えるのは現実的ではありません。
特に中小企業においては、特定の従業員が事業のキーパーソンになることもあり、定性面での評価で従業員を考慮することは必要不可欠です。
そう考えると、事業譲渡の前に従業員を解雇することは譲渡する事業の資産価値を大きく毀損するだけであり、まさに百害あって一利なしだと思います。
まあ、上記の記事を読んでいる限りでは、経営側の説明に不手際があったと考えるのが普通だと思います。
事業譲渡の際には、所属する従業員は再度雇用契約を譲受企業と結ぶ必要がありますが、従業員にとっては職を失うかどうかの一大事なわけですし、ここは慎重な行動が必要な部分ではなかったかとは思います。
個人的には、今回の事例から事業承継の難しさを強く感じました。
国は事業承継に関して優遇税制などのメニューを用意していますが、そもそも企業で働く従業員への配慮を怠ると事業承継自体が成り立たないということもあります。
倒産や廃業の将来的な増加を食い止めるために進められている事業承継対策ですが、肝心の従業員のことをまずは考えた上で、ソフトランディングを目指すべきだとは思いますね。