やね日記

或る大阪在住Mac使いの道楽な日々

半藤一利著「昭和史(1926-1945)」

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今さらながら半藤一利氏の「昭和史(1926-1945)」を読んでみました。
もともと日本のいちばん長い日を読んだ後に腰を落ち着けて読もうと思っていたのですが、ずるずると後回しにしている内にようやく今になって読み始めた次第で。
案の定、もっと早く読むべきだったと後悔する羽目になりました。

我が国を破滅に追いやった「集団的熱狂」

今でこそ無謀な戦争だったと言う認識で一致している十五年戦争ですが、当時、その無謀さに批判的な政治家や軍人、ジャーナリストは皆無ではありませんでした。
粛軍演説を行い帝国議会を除名された斎藤隆夫三国同盟に最後まで抵抗した山本五十六、そして、小日本主義を掲げて欧米との交易重視の論陣を張った石橋湛山などですね。
ですが、それでも無謀な戦争に突き進んでしまったのが史実なわけで。
結局は、日清・日露の両戦争を通じて「十万の英霊」と「二十億の国幣」を投じて獲得した、我が国の「生命線」である満蒙の権益を失いたくないと言う感情論が幅を利かせてしまったのだろうと思います。
そこで何よりも重要であったのは、もともと主戦論は大多数の国民、大多数のマスメディア、そして、その後押しを受けて帝国議会で唱えていた議員がいたと言う事実ですね。
まさに集団的熱狂です。
十五年戦争は最初から軍部の独走で進められたわけで無いことは認識する必要があると個人的には思いました。

ノモンハン事件に代表される組織の「無責任体質」

世論の後押しを受けて進められた軍部主導の戦争ですが、その内実は恐ろしいほどの組織内の無責任体質に起因する拙劣な戦略と戦術のオンパレードでした。
本書では、その際たるものとしてノモンハン事件を挙げています。
ノモンハン事件は、その戦闘を主導した辻政信ら参謀たちの無責任ぶりも際立っていますが、一番問題なのは、その失敗からほとんど何も学ばなかったという組織的欠陥ですね。
もちろん、個人としては優秀な司令官や参謀は居たわけですが、それでも集団となると無責任ぶりが際立ってしまうと言うこの軍部の組織的欠陥を見ていると、この戦争は負けるべくして負けたと言わざるを得ないです。
これは陸軍に限らず、三国同盟締結時の海軍首脳部の無責任さにも見られ、軍部全体の宿痾ですらあったと言えると思います。

昭和史二十年の5つの教訓が現代の我が国に語りかけるもの

最後に半藤氏は、この負けるべくして負けた戦争の教訓を5点挙げています。
すなわち、国民的熱狂をつくらない、理性的な方法論を重んじる、小集団主義の弊害、国際的常識の欠如、そして、短兵急な発想に陥らないことの5点ですが、これらは現代の我が国においても十分通用する教訓であると思います。

現代においても不安を煽る上に一部のマスメディアがそれに乗っかって国民的熱狂を起こそうとする動きは後を絶ちませんし、主義主張に拘って理性的な考え方を軽視することも後を絶ちません。またネット、特にSNSで顕著ですが、小さな集団の意見にばかり目を向け、他の意見に耳を貸そうとしない人を良く見かけますし、海外のデファクト・スタンダードから目を背けて未だに我が国最高とお題目を唱える人も後を絶ちません。何よりも、大局に立って地道に課題を解決しなければならない国家的課題に弥縫策しか示せない政治家も多く見かけます。

いつの時代においても、私たちは歴史から教訓を学ばなければならないと思います。そうで無ければ、我が国は再び破滅への道へと歩むことになると思います。
それは戦争に巻き込まれると言う単純な話では無く、世界の枠組みの中で貧乏くじを引かされて、外交的にも経済的にも破滅的な状態に陥ると言う意味での破滅への道ですね。

若い世代にこそ読んで欲しい本書です

個人的に本書は、昭和史と言うものを歴史として捉えることが出来る若い世代にこそ読んで欲しいです。
そして過去の教訓を是非学んで欲しいですね。
おそらくその教訓は、これから先の長い人生においても有用な教訓だと思います。
本書は歴史書ですが、一方では警世の書でもあり、我が国の破滅を経験した人の遺言書でもあると個人的には思いました。
その言葉の重みを、読むことによって是非感じ取って欲しいと思いますね。