しばらく買っていなかったためにまとめ買い。
リアルタイムにビッグコミックオリジナルで読んではいますが、やはり単行本でまとめ読みすると話の流れが見えて得をした気分になりますね。
以下、各巻の感想を書いてみました。
昭和天皇物語 第11巻
帝国陸軍内の統制派と皇道派との対立が永田鉄山軍務局長の暗殺で頂点に。
一方で血気にはやる一部青年将校たちの行動もあり、帝国陸軍中央はさらに不穏な雰囲気に包まれます。
個人的に興味を引いたのは、昭和天皇の眞崎甚三郎陸軍大将に対する評価がはっきり書かれていたことと、鈴木貫太郎侍従長とあの安藤輝三陸軍大尉との面談が描かれていたことですね。特に後者については、秩父宮との関わりでも描かれていましたが、安藤大尉が血気盛んな青年将校と一線を画す存在であったことを示していて良い話だと思いました。
また、全体として軍内部の派閥争いのドロドロさ加減を、統制・皇道両派のいずれに偏ることなく詳細に描かれていたことも良かったです。
そのような中で、ついに二・二六事件が勃発。
青年将校の凶弾に倒れた鈴木侍従長を病院に搬送して快癒を祈る妻タカのもとにかけられた昭和天皇の激励の電話。
重臣が次々と襲撃される中で静かに怒りを募らせる昭和天皇の後ろ姿が印象的でした。
次巻は二・二六事件のてん末までが描かれますが、この昭和天皇の「静かな怒り」が鍵になったことも良く分かる描写でした。
昭和天皇物語 第12巻
この巻では二・二六事件の経過とてん末が詳細に描かれていました。
印象的だったのは、青年将校の決起を利用して陸軍内の主導権を握ろうとする軍首脳が暗躍する姿でした。
特に皇道派の中心人物の一人である、真崎甚三郎大将の描写が事細かく描かれていました。
後は昭和天皇の「静かな怒り」が延々と描かれていたことも印象的でしたね。
"私がもっとも信頼している老臣をことごとく殺戮するのは、真綿で私の首を絞めるのに等しい行動ではないのか⁉︎”
"陸軍中央はなぜ、反乱部隊の鎮圧に動かない‼︎ このままの状態ならば、朕が近衛師団を率いて、討伐に向かう‼︎”
いずれも昭和天皇のお言葉として有名なものですが、これらのお言葉を発する描写を目の当たりにするとより迫力を感じました。
あと意外だったのが、弘前に赴任していた秩父宮の描写と石原莞爾大佐の描写が思ったよりも多かったことですね。
もっとも、秩父宮は安藤輝三大尉と親交があった上に事件後、昭和天皇を助けるために弘前から帝都に赴いていますしね。
また、石原大佐は当時陸軍参謀本部の作戦課長で、事件を受けて設置された戒厳司令部の参謀として事件の収拾に奔走していたために描写も多くなったのかなと思います。
昭和天皇の石原評の描写もあり、今巻も興味深く読ませてもらいました。
そして、二・二六事件は首謀者たちの処刑をもって終結へ。
処刑前に描かれた安藤大尉の無念の独白が、この事件の軍首脳の無責任さを浮き彫りにしたと思いますね。
そして、この一連の軍首脳のあまりにも政治的な行動が、今後の軍部の暴走に繋がっていったのかなとも思いました。