もともとグーグル問題以前から、出版業界は非常に多くの課題を抱えていたように思います。
長年に亘って、法規制や著作権、業界慣行などによって様々な参入障壁が設けられていた業界ではありましたが、近年のインターネットの普及や市場の成熟化などによって、その構図が変わりつつあります。
そこで、マイケル・ポーター教授のファイブフォースモデルを利用して、個人的に出版業界を取り巻く競争要因を分析してみました。
ファイブフォースモデルとは、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が自著の「競争の戦略」の中で唱えた業界の構造分析を行なう手法で、5つの競争要因からなっています。
その5つの競争要因とは、「買い手の競争力」「売り手の競争力」「新規参入」「代替品・サービス」「業者間の競争」の5つで、これらの競争要因から業界全体の魅力度を分析します。
今回、私はそれらの競争要因の主体を上図のように定義させてもらいました。
それに基づいて、個人的に導いた競争要因は下図のようになります。
こうして見てみると、グーグル問題以前から出版業界を取り巻く状況は既に厳しくなっていたことがよく分かります。
そして、この中でも特に重要だと私が考えるのは、「書籍の情報化」による出版業界の競争優位の低下であります。
これまで、出版業界を支えてきた競争優位の一つには、「紙による出版」というものがあったと考えます。
出版のための大量の製紙の調達、規模の経済性に支えられた低コストでの印刷や製本、そして、紙の書籍に特化した効率的な物流システム。これらのように、「書籍=紙の書籍」という前提に立った最適化された出版システムが、長い間の出版業界の優位性に繋がっていたように思います。
ところが、ブックオフなどによる大手中古書籍販売店の台頭や電子書籍の増加、そして今回のグーグルによる絶版書籍のフェアユース化などにより、新規の「紙による出版」が今まで以上に減少するのは想像に難くないと思います。
現に危機感を募らせているのは、当の出版業界よりも印刷業界の方だと思います。近年の大手印刷会社による大手書店への資本参加は、垂直統合による印刷需要の確保なども視野に入っているものと思われます。
まあ、出版業界には、これまで築き上げてきたブランド力や著作権などによる法的保護の存在がありますので、すぐに凋落するとは考えられないのですが。
ですが、このままでは消え去って行く業界になるのは遠い日のことではないと思います。
グーグル問題は、出版業界に対して新たな競争要因を認識させる出来事だったと思います。
ですが、出版業界が抱える問題の本質は、もっと根が深いのではないかと私は思いますね。