あの世に行く前に最終巻を読むことができて良かったです
完結まで三十余年。
読み始めた時は高校生でしたが、気がついたらもう中年に。
ですが、あの世に行く前に最終巻を読むことができて良かったです。
私自身に対しても、作者たる田中先生にしても。
少なくとも、作者がお亡くなりになって絶筆にならなくて本当に良かったと思いました。
「皆殺しの田中」らしい最終巻でした
最終巻の中身については発刊間もないので詳しく書くことは控えますが、銀河英雄伝説以来の伝統である「皆殺しの田中」を期待している人にとっては、その期待を裏切らない出来栄えになっていると思いました。
獅子奮迅の活躍をした果てに倒れるキャラクターが多かったですが、あっけなく倒れたキャラクターも意外に多かったです。それだけに、戦場での死というものにとてもリアリティが感じられたと思います。
小説に感情移入し、生き残って欲しいと思うキャラクターは多かったですが、志半ばで倒れていったからこそ、その倒れた人の志がより強く印象付けられたように思います。
勧善懲悪の戦記というよりは理想の王者の在り方を追求した物語だったかと
宝剣を得てボスキャラを倒すというストーリー、王子が各地を流浪する貴種流離譚的なストーリー、いずれもヒロイックファンタジーにありがちな設定ですが、このアルスラーン戦記で特筆すべきなのは、アルスラーンが最後まで追求した王者としての姿勢が終始一貫して描かれたことだと思います。
特に物語後半で、アルスラーンの王者としてのストイックさが強く描かれていたと思います。そのストイックさゆえに王朝の継続が叶わなかったわけですが、だからこそ解放王アルスラーンは、後世において伝説や歴史になったのだと思います。
物語後半は陰鬱な展開が多かったですが、アルスラーンの志を描く上では必要なことだったのかもしれません。
何巻か外伝が出版されると嬉しいですけどね
この作品は全16巻の長い物語ですが、それでも駆け足で展開した所があります。
本伝は完結しましたが、その隙間を埋める外伝を出して欲しいと思うのは贅沢でしょうかねえ?
途中まで描かれたダリューンの絹の国での活躍や蛇王との戦い後の「守護者」エラムの物語、そしてアルスラーン即位後数年の間で繰り広げられた物語など、話のネタは尽きないと思います。
田中先生は区切りをつけてやれやれと思っているかもしれませんが、そこはもう少し頑張って欲しいと思いますね。