やね日記

或る大阪在住Mac使いの道楽な日々

「大阪都構想」とその「対案」に対する個人的感想

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大阪市特別顧問として制度設計に関わった方の記事なので、当然ながら「大阪都構想」に肯定的な記事ではありますが、地方自治を考える上では重要な示唆に富んだ記事だと思います。
私自身は大阪市民では無いので、今回の住民投票投票権は持ちませんが、一方、大阪府民としては今回行われようとしている大阪府・市の制度改革とは無縁ではありません。
そこで、「大阪都構想」とその対案とされている「大阪戦略調整会議」、「総合区」への移行について個人的に比較検討してみました。あくまでも素人の感想なので、こういう意見もあるのだと思って頂ければ幸いです。

大阪都構想」について

いわゆる「大阪都構想」とは、政令指定都市である大阪市を解体し、五つの特別区に再編成するものであります。

メリットとしては、約270万の大阪市を40万から50万の五つの特別区に再編することで、より住民に近い行政サービスが提供されるであろうと言われている点が挙げられます。特別区は区長は公選制であり、区議会も設置されるので、都市計画や消防など大阪府が行うべきとされる業務を除いては、ほぼ一般の市と同様の権限を持ちます。

デメリットは、やはり特別区への移行により多額の税金が投入されるという所ですね。ただ、これについては、これまでに発生した、あるいは将来的に発生するであろう二重行政によるコストと、大阪市の分割により発生するコストのどちらが、将来的に大阪全体にとって不利益をもたらすかを考えることが重要であると思います。
また、大阪市の名称が無くなるのもデメリットに挙げる方もいらっしゃるようですが、大阪の名称そのものは無くなる訳ではありませんし、そもそも大阪の名称は大阪市の占有物なのか?という思いはあります。

補足すると、「大阪都構想」と銘打っていますが、特別区の設置により直ちに大阪府大阪都へ名称変更するわけではありません。この一事を以って、「大阪都構想」という呼称に偽りありと指摘する方もおられるようですが、大阪府から大阪都への名称変更は不可能ではありません。
根拠法は、冒頭の記事でも取り上げられていますが、日本国憲法第九十五条と地方自治法第三条第二項の規定です。これらの条文を読めば、前例はありませんが不可能では無いことは分かると思います。

日本国憲法(抄)
第九十五条  一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

地方自治法(抄)
第三条  (略)
○2  都道府県の名称を変更しようとするときは、法律でこれを定める。

すなわち、大阪府民による住民投票大阪都への名称変更の過半数の同意がなされ、それを受けて、大阪都への名称変更に関する法律が国会で議決されれば、法的には可能であると思われます。

「大阪戦略調整会議」について


大阪戦略調整会議の設置に関する条例案  提案趣旨説明 (PDF)
大阪戦略調整会議の設置に関する条例 (PDF)

大阪戦略調整会議とは、自民党大阪府議団が提出した大阪府と府下の政令指定都市である大阪市堺市の首長と各議会・市会より推薦された議員で構成される各自治体間の施策調整を行う会議のことです。

メリットとしては、新たな組織の新設だけなので「大阪都構想」に比べればコストは抑えられる点と、各自治体間の事前の調整により、二重行政のデメリットの減少が期待出来るという点が挙げられます。

デメリットとしては、構成メンバーが大阪府大阪市堺市の首長と議員だけで、大阪府下の他の市町村に直接の発言権が無い点。原則として過半数による議決で決定される上に、府知事に決定事項の議案提出義務、府議会に努力義務が課せられるので、大阪市堺市の二大都市に有利な施策に偏る可能性がある点が挙げられます。

多額の税金の投入が必要な「大阪都構想」とは異なり、組織の新設だけなので安上がりではある点、各自治体間の合議により二重行政のデメリットを減少させる可能性がある点では評価出来ると思います。
ただ、合議制なので責任の所在が不明確になる恐れがあり、万が一議論が迷走すれば、大阪一体での施策遂行に一貫性が無くなる恐れもあります。そして、施策の円滑な遂行には、大阪府知事大阪市長堺市長の緊密な連携が担保される必要もあります。
何よりも、二大都市の意向が大阪府の施政に直接影響し、一定の強制力に似たことも発生するので、他の府下自治体が不利益を被る可能性があるのが不安材料ですね。

「総合区」への移行について

公明党大阪市議団が提唱しているものです。
残念ながらネット上で提唱者自身が詳細に説明しているものを見つける事が出来ませんでした。

「総合区」とは、昨年五月の地方自治法改正により規定されたもので、政令指定都市の下での従来の行政区に対して、より多くの権限を持たせたものです。
メディアの報道によると、公明党案は24の行政区を11の総合区へ再編するというのが骨子のようです。

公明党の“都構想対案”入手 「総合区」の区割り明らかに

メリットとしては、従来の行政区を活用する形になるので、これまた「大阪都構想」に比べれば費用は安くなるという点が挙げられます。また、総合区の区長は副市長などと同様に、議会の承認が必要な特別職となるので、より議会の意向に近い業務遂行も期待されます。

デメリットは、再編を伴うので「都構想」よりは少ないとは言え、税金投入が行われるのは不可避な点。そして、特別職とは言え市民に選ばれたわけではない区長が業務遂行を行うのは行政区とは何ら変わることが無い点ですね。もちろん、区議会は設置されません。

従来の行政区を活用して再編するという意味では、コスト的にも安上がりになるとは思われます。
ただ、あくまでも市と区の間での権限移譲に留まるため、これだけでは府市二重行政の解決策とはなり得ないと思います。
おそらくは、前述の「大阪戦略調整会議」との併用を念頭に置いているものと思われますが、それでも「大阪都構想」に比べると地方自治組織としての一貫性に少し難があるのではないかと個人的には思います。

終わりに

以上、ネット上の情報を基に文章を組み立ててみました。
大阪都構想」への是非だけだと、否定された場合は現状維持になりかねないので、対案とされるものも取り上げさせて頂きました。
書いていて個人的に思ったのは、住民投票に当たってはより多くの情報発信の努力が政治・行政の側には当然求められるわけですが、投票する側もより多くの情報を能動的に集める必要があるという点ですね。
今月の住民投票大阪市の運命が決する訳ですが、ギリギリまで情報を集める努力は必要なのではないかとは個人的には思いました。